娯楽感想文

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くしやきさんが好きをお届けするブログvol.10【おれの聖剣を妹が抜いた】

 勇者であることと善人であることは関係がありません。

 正義を執行するにあたって人間性さえ切り捨てられるのなら恐れを知らぬ勇者です。

 また善人であるから優しいというわけでもないでしょう。

 自分にとっての、あるいは社会や世界にとっての善きことが目の前の誰かにとってもまた善きことであるなど不遜が過ぎるという話です。

 

 御託はよして、優者の話をしませうよ。

 

 今回読んだ【おれの聖剣を妹が抜いた】はまるろう 様によるちょっとえっちなラブコメであり、頼りない兄としっかりものの妹のホームコメディであり、そして最高に熱く優しいファンタジー作品です。

おれの聖剣を妹が抜いた / まるろう おすすめ無料漫画 - ニコニコ漫画 (nicovideo.jp)

 今作は全体的に線が少なく、その分キャッチーで愛らしくカッコいいという素敵な絵で構成されています。

 複雑さはないのに個性的な人物・モンスターがいっぱいで、読みやすく、覚えやすく、判別しやすいと、漫画をあまり読まないぞ、という人にもおすすめです。

 しかもなんと完結までの全342話がニコニコ静画さんにて無料で公開されています。

 ほかの作品もそうですが、なんでこうニコニコ静画さんには野生の神様がうじゃうじゃいるんでしょうね。さすがは八百万の神がいると噂される国といったところでしょうか。

 

 さて。

 今作の主人公であるアニオは、とても頼りなさげで、ちょっとエッチで、努力が嫌いで、基本的に他力本願で、察しが悪くて、ぐーたらで、言い訳がましく、根性なしで、バニー劇場に向かうときの男前顔が全編通して一番であり、そのくせ見栄っ張りという人物です。

fig.1 抜かれた兄の図
ニコニコ静画【おれの聖剣を妹が抜いた】第1話より

 そんな彼は住んでいる村の外れにぶっ刺さっている聖剣(抜いたら勇者になれる)を抜くために妹同伴で毎日せっせこ3年間通い続けますが、ある日妹のモモにあっさりと抜かれてしまいます。

fig.2 抜く妹の図
ニコニコ静画【おれの聖剣を妹が抜いた】第1話より

 しかし兄の情けない姿が三度のおやつより好きそうな彼女は兄が聖剣を抜いたことにして彼を勇者に仕立て上げます。

 かくしてなしくずしに始まる偽勇者の物語。

 とはいえもちろん彼は彼なので、順風満帆とはいきません。

 

 スライムを倒せるようになったと喜んでいたらゴブリンにさえ負ける

 仲間にした武道家には「邪魔」と言われる。

 モグラには埋められる

 幻覚作用でおぽちゅにてぃ~する。

 見ただけで相手の強さを推し量る力を持った部族からはゴミ呼ばわり。

 舞台となる東西南北の国の囚人服をコンプリートする。

 

 などなど、挙げ始めればキリがない情けなエピソード。

 そんな人物なのに、当たり前のように優しいのが彼のいいところです。

 

 たとえモンスターとの戦闘でズタボロにされても妹のためなら仕方ないとあっさり言ってみたり。

 窮地に陥っている人なら、それが敵である味方であるかなど―――そして自分よりも強いか弱いかさえ関係なく身を挺してかばおうとしてみたり。

 誰かを助けるための努力はめちゃくちゃ嫌がるのにしない選択肢はなかったり。

 

 神聖なまでの善意だとか、勇者としての誇りだとかそういうものは彼にはありません。ただただ目の前に困っている人がいるなら手助けをしようとするという当たり前の優しさを、敵味方だとか強大さとか規模とか関係なく発揮するのが彼の素敵なところです。

 落とし物を拾ってあげるくらい当たり前に命を救う、みたいな。

 そしてなにより、彼は兄として妹のことをとても大切に思っています。

 今作における最重要人物である妹のモモ―――戦闘能力も高くとても優秀な彼女とともにありながら、アニオはひたすらに兄であり続けます。劣等感や嫉妬などひとかけらもなく、むしろいいお兄ちゃんであろうとするために(ぐうたらながらも)頑張ります。

 アニオはだらしない兄で、モモはしっかりものの妹。

 だけどふたりは、とっても仲良しの兄妹。

 これが今作の一番重要なところと言っても過言ではないかもしれません。

 彼が彼でなければあのエンディングにはきっとならなかったことでしょう。

 

 物語を追って、呆れたり笑ったりしているうちに、いつしか私たちはアニオのことを応援したくなって、そしてたまに見せてくれるカッコいい姿にたまらなく震えて、世界の危機が訪れたってきっと彼ならやってくれるさとそう思えてくるようになります。

 最初のころはバニー劇場で鼻血をだして気絶するようなだらしないやつだったのに……

 

 そんな彼以外にも、この作品の登場人物には魅力的な方々がいっぱいです。

 明確に「コイツ悪人だな」とか、「この人は完全無欠のヒーローだ!」という人物がほとんどいないかもしれません。

 魔王サイドも勇者サイドも、それぞれがなにかを抱えていたり、事情があります。

 コミカルでコメディ色の強い作品なのに、人間が人間臭いというか。

 戦いが終わるころには、それがどんな決着であれ、読者は敵も味方もすっかり好きになってしまうような……そんな場面ばかりです。

 人物によっては、たった一話で印象をひっくり返されて号泣させられたりします。

 最強の漫画か……?

 しかも後半になるとどんどんバトル展開が増えます。

 最強の漫画か……

 しかもしかも最近作者様は新作を連載中です。

 最強の漫画家……ッ!

 

 はい。

 といったところで。

 相変わらずこう、好きなものを紹介するための構成力がなさ過ぎて泣けてきますが、とりあえずそんな感じです。

 

 以上、私の大好きについてでした。

 次の大好きでお会いしましょう。